『デス・ストランディング』レビュー

ここ最近はずっとこのゲームをプレイしてました。

基本的に僕、ゲームはさっとクリアしてさっと終わるのが多かったので、兎に角何かやり込みたいと言う気持ちで購入しました。

メタルギア』シリーズで世界的に有名なゲームクリエイターの一人、小島秀夫監督のコナミ独立後初めての製作タイトルです。

 

プレイのきっかけは、僕が敬愛する吉浦康裕監督がプレイして面白かったと言ってたことから。元々気になってはいたし、所謂「A HIDEO KOJIMA GAME」は一度体験してみたいと思ってたんですよね。

 

この度、ストーリーをクリアして全施設の親密度を最大にしました。

ここまでのプレイ時間は約84時間。すっかり配達依存症になってしまった…。

 

以下、レビュー。

良かった所

出来る事が増えて行く快感、依頼をこなした達成感

舞台は"デス・ストランディング(通称DS)"と呼ばれる未曾有の大災害によって人っ子一人いない荒れ果てた荒野と化したアメリカ大陸。

大陸では触れた物の時間を強制促進させる"時雨(ときう、タイム・フォール)"が降り注ぎ、地面からは"BT(Beached Things)"と呼ばれるタール状の怪物が突然現れては人間をあの世に引き摺り込もうとする、世は正に世紀末。

 

人々が怯えて誰も外に出なくなった世紀末アメリカで、プレイヤーが操る主人公"サム・ポーター・ブリッジズ(演:ノーマン・リーダス)"は、人の住まう拠点間を行き来し要望の荷物をその脚で届ける配達人を生業としています。

 

ゲームデザインは所謂オープンワールドの形式を取っており、主人公の仕事が示す様に本作は広大なアメリカ大陸でひたすら配達をするゲーム。

 

時雨の影響でフィールドには人間だけならず動物そのものが居ないし、存在するエネミーは先に述べた"BT"と、様々な要因で倒錯して人を襲う様になってしまった"ミュール"と呼ばれる山賊みたいな連中だけ。

戦闘システムがあるにはあるけど、ほぼ最低限。ボスキャラはラスボスも含め、全て難易度ノーマルでも事前準備なしで撃破出来ます。

 

拠点Aで依頼を受ける→荷物を受け取る(見つける)→拠点Bに荷物を届ける(例外もあり)。

基本的なゲーム性はひたすらこれを繰り返すだけで、エネミーは敵ってよりはその配送過程でサムを妨害して来るお邪魔虫と言った方が正しいでしょう。

 

そんなお使い作業を単調に繰り返すだけ、と思われるかもしれませんが、今作のキモはその作業過程にあります。

 

何と言っても舞台がアメリカ大陸なんだからとにかく広い。

拠点と拠点の間を移動するだけでも一苦労なのに、荷物を担ぎ過ぎるとサムの動きが鈍くなるとか、歩いてるとバランスを崩しそうになるのでボタン押して堪えなきゃ荷物が散らばって荷物がダメージを受けるとか、同じ靴を使い続ければその内破損して使えなくなるとか、ファストトラベルは使えるけど荷物は一緒に持って行けないみたいな、ゲーム的な「嘘」が通用しない要素が多くプレイヤーに乗し掛かります。

 

その間でしつこくサムを襲って来るBTやミュールを振り払うか倒すかしなきゃいけない訳なので、お使いと一口に言っても全く一筋縄では行かない訳です。

特に今作のフィールドは全面的に岩場が多くてゴツゴツしてるし、施設によっては山の上とか崖の側面とか、サム的に理不尽な立地になってる事も多い。スティック倒しっぱなしでスマホを見ながら…なんて横着は出来ず、常にプレイヤーはサムを意識する必要があります。

 

プレイヤーに掛かるストレスは確かにあるのだけど、それだけに依頼を終わらせた時の達成感は普通のゲームのお使いよりも遥かに大きい。特に依頼をこなす内に加算される各施設管理人との親密度を最大にした瞬間は、どの施設においても何物にも変え難い喜びがありました。

 

プレイしてる最初の内はサムの基礎能力も低く装備も整ってないのでひたすら走り回って配達するのですが、その内に手に入るバイクやトラックと行った車両、"スケルトン"と言う肉体補強装置で、比較的スムーズ且つ効率的に配達が出来る様になったりもします。

基本的にフィールドが悪路なのでそれでも配達が楽ではないのは変わらないんですが、それまでの徒歩での配達の辛さと厳しさを知ってる分、特にバイクを手に入れた時はもうそれこそ「スターを手に入れたマリオ」みたいな。脳汁が出る程、配送に夢中になってましたね。

 

プレイヤーに達成感を簡単には与えず敢えて手間を掛けさせる作りになってるからこそ、配達を終えた時や出来る事が増えた時のあの感覚はこのゲーム随一の物だも思います。

常に誰かと「繋がってる」事を意識させるゲームデザイン

本作の物語におけるテーマは「繋がり」。

大災害によって変わり果てた人々の生活と不安定な情勢で分断され崩壊した合衆国を、サムが配達を通して行う施設への"カイラル通信"の接続によって再び一つに繋げて纏めて行く事が目的です。

 

その通信を通し、フィールド上では「別世界のデススト」ともオンラインで繋がります。と言ってもプレイヤーがフィールドに現れるとかそう言うのではなく、繋がって顕現するのはその世界のプレイヤーの「痕跡」です。

フィールド上でプレイヤーのアカウント名と共に(画像では念の為に隠してます)川に勝手に橋が架かってたり、崖に梯子が掛けられてたり、或いは乗り捨てたバイクがその辺に置いてあったり。いちプレイヤーの行動が知らぬ間に他のプレイヤーの行動をサポートしています。

 

これが今作で最もユニークな要素だと感じました。

 

デスストは孤独なゲームです。荒野を一人で黙々と配達するゲームですから。

なのにプレイしてて全くそんな孤独感は無く、常に多くの誰かに助けられながら最後まで駆け抜けた様な感じがする不思議な作品なんですよね。それはこのシステム故だと思います。

 

使ってたバイクが壊れたので誰かがその辺に乗り捨てたバイクを代わりに使わせて貰ったり、誰かが勝手に道端で作ったセーフハウス(休憩所)を有り難く利用させて頂いて回復したり…。

僕の様にやり込んだプレイヤーは特に、その「繋がってる」ことの有り難さを身に染みて理解出来ていると思います。

 

ご丁寧に「いいね」を送る事も出来て、特に便利で有難いものであれば多くのプレイヤーが利用したのか10万を超えるいいねを貰えたりしてますね。

 

恐らくSNSから着想を得たシステムだと思いますが、一人なのに常に誰かと繋がっている感じがして孤独を感じないと言うSNSの特性を見事にゲームとして落とし込んでいるのは流石だと思いました。

本当の映画みたいな映像クオリティ

主人公役のノーマン・リーダスを始め、レア・セドゥ、マッツ・ミケルセンと言った海外の世界的人気俳優を多く起用した今作。

 

彼らを再現したCGのクオリティは凄まじく、まるで本物の人間と見紛う程。表情は勿論、流れる涙の表現もリアル過ぎてエグい。今時のCG技術の劇的な進化を感じます。

 

演者達が織りなす映像もまた本当に素晴らしいクオリティです。

映画好きな小島監督の元々のセンスからか特に演出が非常に秀逸で、プレイ中であってもまるで本当に一本の映画を見てる様な気持ちにさせられました。

 

終始シリアスで難解なストーリーであり物語は終盤になって畳み掛ける様に進むのですが、それでも引き込まれたのはその演出とグラフィックのクオリティ故だったと思います。

本作はゲームとしてでは無くても、一つの映画としても十分通用するレベルだと感じました。

気になった所

序盤が鬼門

本作の苦しい要素のほぼ全ては、まず序盤に詰まってると思いました。

 

その尖ったゲーム性は勿論ですが、退廃的な世界観や終始一貫して重苦しい雰囲気(ネタ要素は多いに有り)、3〜40分はあろうかという程に長いムービー、難解なストーリーや設定など。その様な要素が、津波の様に序盤で一気に押し寄せます。

 

ですが、本作は敢えてゲーム的な嘘を廃した事で他のゲームでは味わえない様な喜びを提供する事に成功した作品。ここさえ乗り越えれば、このゲームにしかない体験をたっぷり味わえると思います。

 

僕はある程度やり込んだ後に終盤へ行ったので、終盤のほぼムービーで進むストーリーも肩の力を抜いた上でご褒美の様な感覚で見ることが出来ました。

まとめ

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過酷で理不尽な過程を経た先にある達成感と充実。本作は「仕事」をこなす作品と言っていいでしょう。

甘やかさない要素がふんだんに盛り込まれてはいますが、今作はそれ故の達成感に重きを置いたゲームだと思います。非常に尖ったゲームではあるけど、だからこそデスストの魅力はデスストにしか出せない物です。

 

また、映像だけならず全体的なグラフィックのクオリティも恐らく国産ゲームの中では最高クラス。国産ゲームでも今はここまで出来るのかと感動さえ覚えました。

 

時には普通とは一味違ったゲームをプレイしたい時に打ってつけ、爽快感よりも達成感。そんなゲームだと思いました。