『幻想少女大戦 DREAM OF THE STRAY DREAMER』レビュー

今回のレビューはこちらです。

有志による幅広い二次創作展開で知られる、ZUN氏による和製インディーズ『東方Project』。

本作は同人サークル『さんぼん堂』による数ある東方二次ゲームの一つで、SwitchでDL可能な東方キャラによる本格SRPGとなります。

 

SRPGは不得手で東方はPS4の『東方神秘録』しかプレイ歴が無い自分ですが、Twitterのフォロワーさんからお勧め頂きプレイすることとなりました。

 

この度、外伝と周回限定含め、全てのシナリオをクリアしました。それに伴いシナリオチャートは全部埋めてます

ここまでのプレイ時間は合計約74時間くらい。

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以下、レビュー。

良かった所

激アツ且つ、東方の世界観が良く理解出来るストーリー

二次創作ということもあり、余りストーリー性なんかは期待してませんでした。典型的なキャラゲーの雰囲気で、可愛い女の子がわちゃわちゃしてるくらいだろうなー、と。

 

ですが、その考えは予想の遥か上を振り切る方向で裏切られました。

一言で言えばとにかく王道で熱いです。テキストの質がかなり高く台詞回しが秀逸で、同人作品かつ二次創作でありながらクオリティは上質な商業RPGのそれに匹敵すると思います。

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基本的な流れは、様々な妖怪と人が住まう異世界"幻想郷"で起きた異変やトラブルに、霊夢魔理沙が仲間達と共に立ち向かうというもの。

レミリア率いる"紅魔館"や東風谷早苗を筆頭とする"守矢神社"など。その核には常に敵勢力の存在が在り、霊夢達は彼女達と戦い勝利し、やがて分かり合うことで東方の様々なキャラクターが自軍入りして行きます。

そんなこんなで合流し合った個性的な仲間同士の友情描写は素晴らしいです。妖怪と人が同じ地で分け隔て無く関わり合い、種族では無く「個」として交流する魅力的な世界がよく描けています。

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敵だった頃のキャラも霊夢達と相対する者として確固たる信念を持ち、それがバチバチにぶつかり合って舌戦を交わす様が本当に熱いです。

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中には特定キャラ達の関係性や人物像だけにフォーカスを当てたエピソードも数多くあります。

こちらも本作のゲーム性ならではな演出で盛り上げてくれるので、どれも非常に印象に残ります。この演出は回を追うごとに強化されるので、その点でも感動出来ました。

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CVは無い、同じSRPGならFEの様な支援会話システムも無い。

それなのにここまで魅力的なキャラと燃える展開が連続したのは、今作が二次創作ゆえの製作側の熱量とも言えます。東方が好きという人も大して知らないという人も、等しくこの愛の大きさは伝わるのでは無いでしょうか。

 

人妖様々にそれぞれ独自の価値観や思想、矜持や目的を抱き、対立したり支え合ったりしながら活き活きとこの世界に根付いてると感じました。総勢70名超えというキャラ数でありながら、印象の薄いキャラが一人もいません。

表現技法が限られてる分、少年漫画やアニメでも見てるかの様に頭の中でキャラが動きまくったので驚きでしたね。

 

また少数ではありますが幻想少女大戦オリジナルキャラも存在します。

これらのキャラも大変よく出来ており、登場は遅めですがその存在感と魅力共に東方本編のキャラに全く負けていないと感じました。寧ろ本作限定キャラで、他の作品には一切登場出来ないというのが勿体無いと思うほど。

 

中でも終盤辺りの展開は最近やったゲームの中でもトップクラスに燃えました。

今まで共に戦ってきた仲間達との絆や尚も敵対する強大な勢力との信念のぶつかり合いという、本作の総決算かつ集大成で相当に盛り上がります。この辺りは話に引き込まれ過ぎて、本当にやめ時を失う程熱中してました。

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それでも一番個人的にポイントが高いのは、本作に登場する勢力はほぼ霊夢達とは初対面という所です。

本作は原作ストーリーの複数をSRPGとしてアレンジし、一つに纏めた物だそうです。風見幽香の様な一部の例外を除けば、殆どのキャラが霊夢達との関わり合いのオリジンという形を取っています。

 

これは自分には非常に有り難かったです。自分が過去にやったのは神秘録だけで、これに出てないのは名前とキャラデザは知ってるけど…って感じばっかりだったので。

中でも神秘録で特にお気に入りだった藤原妹紅が、そういう形で登場するのがとても嬉しかったです。しっかりストーリー上の見せ場もあって、より好きなキャラになりました。

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幻想郷とはどのような場所か、弾幕とはこの世界で戦う手段以外に、彼女達にとってどんな意味を持つのか。そういった東方の根幹を成す要素も、ストーリー上でゆっくりと紐解かれ語られます。

東方を知らない人から東方を好きな人まで。本作のストーリーはどの様な層も楽しめて、幻想郷と幻想郷に生きるキャラを好きになるには十分過ぎる完成度だと思います。

本作をプレイし終わった頃には、どこかフワッとしたイメージの東方キャラ達にしっかりと地に足が着いた感覚がありました。ゲームが終わった頃には軽く東方ロスに陥った程でした。

ゲーム4本分+αのえげつないボリューム

本作を二次創作同人の規模を超えてると思わせる要素に、ストーリー以上にその圧倒的なボリュームがあります。

 

何と本編一周だけで全77話。最初に霊夢/魔理沙でルート選択があり、片方限定のシナリオや外伝、周回での分岐限定のシナリオを合わせるとその分量は100話超え

これ程の超大作になったのは本作の製作に至るまでの経緯にあり、元々はPCゲームの4部作だったのを本作で一つに合体させたからです。先に述べた演出が話数を追うごとに強化されるのはこれが理由でもあります。

 

その話数に比例してとにかく全ての要素が物量の嵐です。BGMは粒揃いの良曲ばかりなのに200曲を超え、70名以上いるキャラは全ての技に気合の入った専用アニメーションがあります。

必殺技になると、各個人に専用カットインも挿入されるという贅沢っぷり。中には動くのもあり、キャラゲーとしては文句無しの作りです。

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ライブラリーも滅茶苦茶気合が入っており、音楽はただ曲を再生するだけじゃなく作曲者や編曲者の解説付き。キャラ図鑑に至っては原作におけるキャラの立ち回りも超細かく解説してくれてます。

特に後者はアメコミの解説書みたいな感じで、原作未プレイの方には読み物としても楽しめるのでは無いでしょうか。

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中でも驚いたのは、戦闘開始直前や戦闘中の専用台詞の豊富さです。特定のシチュエーションかつ特定のキャラ同士の会話で発生する物が非常に多い。

これを狙って出すのも醍醐味の一つで、ストーリー含めたテキスト総量となると分厚い本一冊作れるんじゃ無いかってくらい量があると思います。二周目限定キャラにも専用会話が用意されてるという拘りっぷりで、これをやり込めば底無し沼に嵌ること間違い無しです。

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この4部作が完成するだけでも実に8年という時間を掛けており、同人ゲームとは思えない物量の多さはその歳月に比例しています。

難易度ノーマルでもシナリオを全踏破するのに74時間掛かります。全てをしゃぶり尽くそうとするとどれ程の物になるのか想像もつきません。

スペルカードシステムで緊張感のある戦闘

本作は人気SRPGスーパーロボット大戦』のパロディという側面があるそうですが、それに関してはごめんなさい全く語れません。スパロボ全くしたこと無いので。

 

あまり得意なジャンルでは無いので初心者向けのノーマルで遊んだのですが、基本はオーソドックスなSRPGでストレス無く楽しめました。

自分のようなSRPG苦手勢には好きなキャラを育てて贔屓強化し、精神スキルでバフを積んで大ダメージを出すって遊びが楽しかったです。特に魔理沙は固有スキルでもバフを積んで特大ダメージが出せるので、結構脳汁が出ましたね。

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信仰ポイントがターンごとに貯まって随時強化される早苗。各ユニットは弱いけど、合体すれば3ユニット分の個性が1ユニットとして使用可能な強キャラと化す三妖精とプリズムリバー三姉妹など。

キャラの特徴に合ったユニークな個性を持ったユニットが多く、キャラゲーらしい贔屓育成にも最適です。

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また戦闘においてはボス戦がかなり歯応えのあるゲームバランスだと思います。

途中からボスの体力を0にするとボスが"スペルカード"という奥義を出して復活して来るようになります。これを発動するとボスが全回復し、色付きフィールドの上に立った自機にデバフが掛かったり、強力なMAP攻撃に巻き込まれたりします。

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これが中々に凶悪な仕様の奴が多く、そこに立つだけで体力が問答無用で奪われたり射程技を無効化されたりなどして苦戦を強いられます。"霊撃"という全ユニット共通の攻撃で限定範囲で色付きを除去出来るのですが、数が限られるので何処で使うかが悩み所です。

倒した→スペカ→倒した→スペカで長期戦に持ち込まれるパターンが後半増えるので、ノーマルでも中々に油断なりません。一気にやられるというよりはジワジワと追い詰められる感じに近く、どの難易度でもかなり緊張感のあるバトルを楽しめると思います。

気になった所

チャプターセレクトが欲しい

ゲームは全編通して一本道であり、少々融通が効きません。

各シナリオの特殊条件ボーナスなど取り逃がした要素があれば泣く泣く一からやり直すしか無く、この辺は少々不便に思いました。

 

イベントにも力を入れてる分クリア後も何度か見たいシナリオが幾つかあるので、勿体無いと感じました。

クリア後は周回と同時にチャプターセレクトがあれば良かったのではないかなと思いましたね。話数が膨大なのもあって、プレイしてて尚更欲しくなってしまいました。

まとめ

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本作はSRPGというゲーム性を軸に、ファン視点での東方世界の魅力が誰にでも伝わる傑作と言って良いと思います。多様性のある素晴らしい世界観に個性的なキャラと、東方がここまで長く深く愛される理由がよく分かるゲームです。

東方とか抜きにしても一つのRPGとして非常に良く出来ており、久々にクリア後に強い喪失感を覚えました。

 

ゆっくり実況やニコニコのネタ動画など、そういった要素で東方はネットを利用してたら多くの人が見る機会に巡り遭うコンテンツです。

全然よく分かんないけどキャラとか音楽だけ知ってるって人は他のゲームよりも相当いると思います。それをきっかけにして、ゲームにもちょっと興味があるって人もいるのではないでしょうか。

 

本作はそういった人にも、二次創作ではありますが東方というコンテンツそのものの入門書として自信を持ってお勧め出来る一作だと思います。

弾幕STGや格ゲーなど、ジャンル的に本編にどうしても手が出ないって方は無理に本編に拘らず、本作をまず手に取っては如何でしょうか。